【読書】イラク 戦争と占領/酒井啓子著
イラク 戦争と占領/酒井啓子著/岩波新書
2004年に出版された本書は、タイトル通り2003年から始まったイラク戦争と、その後の連合軍(主にアメリカとイギリス)による占領の様子について書かれている。
目次
第一章 帰還
1 混乱と破壊の果てに
2 何もしないアメリカ人
3 亡命者たちの凱旋
第二章 フセイン、最後の戦い
1 アメリカ、戦争の太鼓を叩き始める
2 空中分解する国連
3 開戦
第三章 「アメリカの占領」の失敗
1 ポスト・フセイン体制の準備
2 戦後統治政策の混迷
3 「イラク人の主権」を目指して
第四章 宗教勢力の台頭
1 地域共同体に根付いた宗教勢力
2 若きムクタダの台頭
3 進行するイスラーム化
終章 イラクはどこへ
1 戦闘の再開
2 歴史が語る教訓
イラク戦争後、イラク国内でテロ攻撃が頻発し、ISに根城にされるなどイラク国民が大変な目に遭ってきたことを知っている今、本書を読むと「戦争という手段はとってはいけない。その選択肢は捨てるんだ、ホワイトハウス!」と言う気持ちになる。
著者は米英によるイラク攻撃から約三ヶ月半後の7月に、イラク国内に足を踏み入れている。
電力不足に水不足、治安の悪化、略奪に誘拐に強姦。
「イラクの都市機能も行政も戦争によって機能しなくなっているのに、占領軍はなにをしているのか」と苛立つイラク国民。
本書を読んでいると、戦争によって混沌の世界に陥った国民の苦しみを感じる。
しかし、その一方でフセイン政権による独裁政治、監視社会が終わったことに喜ぶ人たちがいる。
イラクの復興が遅れたのはアメリカが”脱バアス党”を掲げ、優秀なテクノクラートを官僚機構から追放したことが原因とメディアでは言われている。
じゃあなぜアメリカは”脱バアス党”を掲げたのか、アメリカのイラク占領計画はなぜ上手くいかなかったのかを本書で説明している。
個人的に読んでいて気が重くなったのは、第二章の「フセイン、最後の戦い」である。
イラク戦争当時、「なんでアメリカはイラクに戦争を仕掛けるんだろう?」と不思議に感じていたことを覚えている。
建前なのか、本音なのかわからないが、アメリカは「フセインが大量破壊兵器を持っているからだ」という理由で始めた戦争。
結局、大量破壊兵器はなく、フセイン政権は倒れたが、テロが頻発し、自国の若者(米軍兵士)と、イラク国民に多数の犠牲を出した戦争。
この戦争で日本人外交官2名も殺害されている。
ブッシュ大統領(当時)は最後通告演説(2003年3月17日)を行い、3月20日の早朝、バグダードを爆撃する。
最初の爆撃はフセイン大統領とその側近を狙ったピンポイント攻撃だったが、アメリカの思惑通りにはいかなかった。
そして、本格的な爆撃と地上侵攻。
アメリカやイラク、その周辺の国にも様々な思惑を持った人がいただろうが、戦争を望んだ人は少数だったのではないかと私は思う。
欧米を中心に反戦デモが行われ戦争を止めようとした国民もいたが、為政者が「する」と決めたらただ震えて成り行きを見守るしかない現実に恐怖を感じた。
国連でのアメリカ対ヨーロッパの開戦をめぐる激論や、アメリカが起用していた亡命イラク人の存在、フセイン政権下で宗教行事が制限されても廃れることのなかったイスラム教の存在など、イラクとイラク戦争について知りたい方にいい本だと思う。