【読書】物語 オーストラリアの歴史 多分化ミドルパワーの実験/竹田いさみ著
物語 オーストラリアの歴史 多分化ミドルパワーの実験/竹田いさみ著/中公新書
本書は2000年に出版され、主にオーストラリア政治について書かれている。
この本を読んだきっかけはオーストラリアといえば「コアラ、カンガルー、エアーズロック」しか思い浮かばない自分の知識を増やしたかったから。
いざ読み始めてみると、内容も面白いが文章が読みやすくてストレスなく読めた。
アジア地域の中で白人主体のそれほど大きくない国であるオーストラリアが、いかに自国の利益を確保するために努力を重ねているか、この本を読んで学ぶことが出来た。
本書の構成
第一章 揺れる自画像とアイデンティティ
第三章 ヨーロッパの世界分割競争に翻弄されるー英帝国の敵
第四章 対外脅威と安全保障ー日本問題の登場
第五章 大国政治への関与と挫折ー国連外交と冷戦の戦士
第六章 多分化ミドルパワーの国家像ーベンチャー型中企業国家への模索
本書を読んで白豪主義はレイシズムからきたものではなく、安い賃金で働くアジア系の労働者によって仕事を取られる、または労働条件が悪くなる(安い報酬になるとか)という、切実な問題に対処するために、生まれてきたことを知った。
1901年にオーストラリア連邦が成立し、第一回連邦議会で可決されたのが移住制限法というから、本当に喫緊の問題だったのだろう。
もちろんこの法律に反対する人はいたが、人権的見地から反対したのではなく、資本家が安い労働力を確保できなくなるということから反対していたようだ。
この白豪主義を採用していた国が、どうやってアジア系移民が多数暮らす多分化社会になったのかを、本書は詳しく書いている。
第四章では、世界大戦と対外脅威(特に日本)に直面し、オーストラリアがイギリスの政策に翻弄されつつも、自国の安全保障を模索していく経緯が書いている。
恥ずかしながら本書を読むまで、日本軍が1942年にオーストラリアを空襲したり、潜水艦で攻撃を仕掛けたことを知らなかった。
(もちろんオーストラリアを含む連合軍と戦争していたことは知っていたが、オーストラリア本土に攻撃を仕掛けにいったことは知らなかった)
この本土に対する攻撃がきっかけ(他にもシンガポール陥落もあったが)で、「英帝国はもはやオーストラリアを守れぬ」という事実を突きつけられ、対米同盟関係を求めるようになる。
本書を読んで「外交っていうのは話し合いだけではなく、実力行使も必要なんだ」と感じたのが、ボート・ピープルのはなし。
ボート・ピープルとはベトナム戦争で難民になった人が、小舟に乗って、近隣諸国にたどり着いたひとたちのこと。
ボートが漂着したのは、近隣のタイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、インドネシアであった。
難民問題を抱えたASEAN諸国は、オーストラリアに難民の受け入れを求めた。
オーストラリアはチャーター機を用意し、難民キャンプからベトナム難民を引き取ったが、難民を選別(本書の言葉を借りれば”優秀な難民”)し連れ帰ったことから、ASEAN諸国はオーストラリアを非難した。
対抗措置としてASEAN諸国は、英語が話せない、高い教育を受けていない難民を選別し、ボートに乗せてオーストラリアに送り込むという行動に出た。
オーストラリアが積極的に難民を受け入れることで、このASEAN諸国によるボート・ピープルの送り込みは止んだ。
ベトナム難民を中心としたインドシナ人がオーストラリアに住むようになり、またアジアの経済成長の時期にも重なりオーストラリアは、アジアを重視していくようになる。
この本を読むことで、オーストラリア政治の歴史について知ることができたし、外国から日本を見ることで日本の近代史も(少しだが)知ることが出来た。