【読書】満洲国 砂上の楼閣「満洲国」に抱いた野望/川村 湊著【満洲国】
満洲国 砂上の楼閣「満洲国」に抱いた野望(FOR BEGINNERS)/川村 湊著 イラストレーション:辻下浩二
この本はタイトル通り、満洲国について初心者向けに書かれている本。
本書を読んだ理由は”自民党と戦後史”を読んで、”満洲人脈”と岸内閣が強い絆で繋がっている印象を受けたから。
岸自身が、満洲国の産業部次長を務めた官僚だったから、”満洲人脈”と深いつながりがあるのは自然なことなのだろう。
自分が”満洲”という存在を初めて知ったのは子供時代のテレビ番組でだった。
満洲で孤児になった人たちが、日本に来て自分の肉親を探したり、親兄弟と再会して号泣しながら抱き合う姿にショックを受けた。
子供だったから情緒が育ってなくて「お母さんと再会できたんだね。良かった」みたいな感情はなく、「中国人は戦争した相手の子供を引き取って育てたのか!」とびっくりしたのだ。
大人になって物事を知って、”満洲孤児”と言われる人たちの苦労を想像したり、自分が日本人ということを知らずに中国で生きている人もいるのだろうと考えたりしている。
本書を読んだあと、ネットで”満洲孤児”と検索したら、日本に帰ってきた人たちの話が記事になっていた。
どれも重い話で、読んでいると泣けてくる。
本書の構成
Ⅰ 「満洲国」の成り立ち
Ⅱ 日本にとって「満洲」とは何だったのか
Ⅲ 満洲国の政治と経済
Ⅳ 満洲国の開拓
Ⅴ 満洲国の生活
Ⅵ 満洲国の文化
Ⅶ その後の満洲国
Ⅷ 戦後日本と「満洲国」
表紙に”FOR BEGINNERS”と大きく書いてある通り、満洲のことをあまり知らない人向けの本だと思う。
ひとつのテーマに深く掘り下げているのではなく、満洲に関する知識を(浅いけれども)幅広く与えてくれる本。
自分が庶民階層だから、興味深く読んだのは”満洲開拓移民”のはなし。
国策の”満洲開拓移民募集”の呼びかけに応じ、集団で満洲に移民した人たちは未開の地を開拓するつもりで行ったが、現地に着くとすでに開墾された畑と家をあてがわれることが多かったらしい。
これも、国が”満洲拓殖公社”という官製の会社を作り、現地の中国人農民から土地を買い上げ、そこを日本人移民に斡旋していたようだ。
満洲開拓移民としてきた日本人たちは、自分の畑(しかも開墾された土地)を所有できることに喜んだそうだ。
しかし、それまで自分たちが住んでいた家や、耕していた畑を安い金額で無理矢理買収された中国人農民たちは、大変だったみたいだ。
家財道具を荷車にのせて家族とともに、村を出て行かなければいけないケースもあったらしい。
あるいは、そのまま村に残ることが出来ても、小作人になって日本人地主のもとで農業に従事したと本書に書いてある。
こうゆうやり方の「満洲開拓移民」だったので、満洲国の崩壊後、多くの開拓村が悲惨な目にあったそうだ。
現地の人の土地を奪わず、日本人自ら開墾した村では、襲撃されなかったり、現地の人が匿ってくれたという事例もある。
この本を読んで一番驚いたのは「満洲国」っていう国をつくっておいて「国籍法」がなかったことだ。
満洲に住んでいた日本人たちは、日本国籍を捨て、満洲国籍を取ることを可能にする法律を成立させることに躊躇していたようだ。
(日本は二重国籍を認めてないから、国籍法を作り、満洲国民になるために帰化しないといけない)
”Ⅶ その後の満洲国”と”Ⅷ 戦後日本と「満洲国」”に満洲国崩壊後に満洲開拓移民を含む移民たちが経験した内容が書かれている。
敗戦と満洲国崩壊を知った人々は避難のため鉄道駅に向かうが、列車は払底し避難することができなかった。
国境に近い開拓民たちはもっと悲惨で男手がない(”根こそぎ動員”で徴発されていた)開拓村は、女性、子供、老人、けが人や病人しかおらず、情報も乏しい中、逃避行を始める。
この逃避行の途中で、捨て子や迷子や孤児になった子供たちが中国残留孤児になる場合が多かった。
俳優の宝田 明さんが日本記者クラブで満洲からの引き上げなどの話をされていたので、動画をリンクしておく。(宝田さんのお兄さんの話がとても悲しい)