ブラック・フラッグス「イスラム国」の台頭の軌跡【読書】
ブラック・フラッグス「イスラム国」台頭の軌跡 ジョビー・ウォリック著 伊藤 真訳
上巻はザルカウィ本人とイラク戦争開始後の急激な治安の悪化について、下巻ではザルカウィの死、そしてシリアでの内戦の始まりからイスラム国の勃興までを書いている。
構成がよいのか、非常に読みやすい本。
どのように読みやすいのかというと、ザルカウィのことを描写するときは、ザルカウィが生まれた国ヨルダンのムハーバラード(総合情報部)のアブー・ハイサムの視点、ザルカウィが収容されたヨルダンのアル=ジャフル刑務所の常駐医師のサブハ医師の視点、そしてCIAのネイダ・バコス分析官の視点など、複数の視点からザルカウィの人物像に迫っているのが、ザルカウィについて理解しやすく、すいすい読める。
CIAの分析官と、ホワイトハウスのやり取りも興味深く読めた。
ブッシュ政権はイラク戦争をするための理由を探すのに、CIAに圧力をかけていた。フセインとアル=カーイダがつながっているんではないかと、そういった情報がCIAにあるのでないかと。
でも、ブッシュ政権が欲しがる情報はなかった。しかし、ヨルダンでアメリカの外交官が殺され、それがイラク潜伏中のザルカウィの仕業ではないかとブッシュ政権は考えた。
そして、2003年の国連安全保証理事会に対するコリン・パウエル国務長官のスピーチで、イラクがアル=カーイダの仲間であるザルカウィを庇護してると話し、ザルカウィの画像が安保理の大画面に映し出される。
アメリカのこの行為が、それまで無名だったザルカウィをイスラーム主義過激派の花形にしてしまった。
有名になったことでザルカウィは戦闘員を集めることが容易になり、テロを計画、実行していく。
ザルカウィが仕掛けてくる攻撃に、イラク国民も、米軍を中心とした連合軍も、イラクの復興を目的とする国際支援組織も苦しめられ、犠牲者が増えていく。
そして2006年6月、米軍の爆撃によりザルカウィ死亡。
ザルカウィが死んだ時、まだ「イスラム国」は誕生していなかった。しかし、ザルカウィの蒔いた種は戦争とテロで荒廃しているイラクと、”アラブの春”により、急速に治安が悪くなったシリアで芽を出し花を咲かせる。「イラクとアッ=シャームのイスラム国」の誕生である。
関係する国や機関が多く、取材した人物も多いのに、非常に読みやすく書かれている本。
個人的に目次のセンスが大好き。
目次
上巻
第1部 ザルカウィの台頭
1 「目だけで人を動かすことができる男」
2 「これぞリーダーという姿だった」
3 「厄介者は必ず戻ってくる」
4 「訓練のときは終わった」
5 「アル=カーイダとザルカウィのために」
6 「必ず戦争になるぞ」
7 「名声はアラブ中に轟くことになる」
第2部 イラク
8 「もはや勝利ではない」
9 「武装反乱が起きていると言いたいんだな?」
10 「胸くそ悪い戦い、それがわれらのねらいだ」
11 「アル=カーイダのどんな仕業も及ばない」
12 虐殺者たちの長老
下巻
13 「あそこはまったく見込みがない」
14 「やつをゲットできるのか?」
15 「これはわれわれの9.11だ」
16 「おまえの終わりは近い」
第3部 イスラム国
17 「民衆の望みは政権打倒!」
18 「イスラム国なんて、いったいどこにあるの?」
19 「これはザルカウィが道を開いた国家だ」
20 「ムード音楽が変わり始めた」
21 「もう希望はなかった」
22 「これは部族の革命だ」
「イスラム国」について知りたい方におすすめの本。